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『ピンポーン』
「ちょっと早いけど集まってくれるか?」
社長が私にそう声をかけたのは始業時間の5分前。
お茶を沸かしていたが火を止めて全従業員の集まる輪の中へ入っていく。
すると社長の口からはいつもの
「おはよう」
ではなく
「申し訳ない」
から話が始まった……。
景気の急激な悪化で取引先がなくなった事。
今日の給料までしか払えない事。
退職金はこの工場と機械を売って少しでも払う事。
そして……
「もうこの工場は必要なくなったんだ…」
…そう告げられた。
今後の事を今から1人ずつ詳しく説明していくと社長が言っている横で奥さんは泣き崩れていた。
「僕は説明いらないです。今までありがとうございました」
奥さんの嗚咽だけが響く工場の中で、1人の従業員がお辞儀をして帰って行った。
すると数人が同じようにお礼を言って帰って行く。
私も泣き崩れる奥さんをこれ以上見ていられなくなり、同じようにお礼を言って荷物を片付け帰り支度を始めた。
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