第8章 男たちの大好きな玩具

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それに、今日は何となくもうクラブの空気を吸いたい気分じゃなかった。日曜は営業してないから加賀谷さん以外誰もいないことはわかってるんだけど。 「…なんか、一度横になったら今日はもう起き上がりたくないかも。まっすぐ自分の部屋に帰った方がいいかな…」 正直に言うと、彼は柔らかい声で答えてくれた。 『そうか。…大丈夫か?ここ終わったら、お前んち顔だそうか。何か必要なものとかないか?』 「大丈夫ですよ、そこまでしなくても」 こんな時なのに思わず笑ってしまう。本当にこの人、過保護だ。っていうか、他人の世話したくてたまらないおばさんみたいになってるし。 「別に何処か痛いとか怪我してる訳じゃないし。ただ、疲れてて身体に力が入んないだけ…。だから、ゆっくり休んでれば明日には普通に元気になれると思う。そんなに心配しなくてもいいよ」 彼はそれでも少し気遣わしげに付け足した。 『じゃあ、今日はとにかく自分の部屋で静かに休め。週明け、元気になったら顔見せろよ。無事を確かめたいから。クラブに顔出すのは嫌だろうから外で会おう。また連絡する』 「うん。…ありがとう」 『家に着いてから何か問題起こったらすぐ連絡して。何か欲しいものがあるとかでもいいぞ。帰りがけに寄ってもいいし。…そいつにしっかり部屋まで送ってもらえよ。ちょっと、も一回電話替われ』 高城くんはいろいろ細かく念を押されてるみたいでわたしはやや同情した。神経質な表情を浮かべて向こうの台詞に集中してる。 「はい。…わかりました。ちゃんと確認します。…ええ、それは。…はい。気をつけます、絶対。…はい。了解しました。何かあったらすぐ。…はい。はい…、それでは。後ほど」 通話を切って、わたしを助手席へと促す。わたしは肩を竦めて彼を見た。 「すみません。あの人、細かいでしょ。何かと」 彼は何とも言えない色を目に浮かべてわたしを見返した。その表情はこちらには今ひとつ意味が読めない。 「あなたのことが心配なんですよ。しっかり送って休んだとこまで確認して、部屋の鍵がきちんと掛けられたとこまで確かめろって念押されました。…まぁ、あいつらが尾けてくることはないとは思いますが。一応走りながらそこも気をつけます」 「尾行されてるかどうかわかるの?探偵みたい」 軽口を叩く余裕まで出てきた。高城くんが落ち着いた動作で車を発進させ、わたしは助手席のシートに深く身体を沈める。
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