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「まぁわたしには勿体ない人だし、もともと。それに、思うに彼、多分わたしについて何か勘違いしてるんじゃないかな。全然面白い人間でもないし。カラフルな要素ゼロだし。一緒にいて楽しいようなとこ特段ないんですもん」
原口さんはおっとりと首を傾けた。
「どうしてそんな風に思うのかわたしにはわからないけど。こうやって話してて、矢嶋さん、退屈に感じるところなんか全然ないよ?自分に対して厳し過ぎじゃないかなあ。もっと自信持っていいと思うけど」
…原口さん。
わたしは有り難さにしみじみした。この人、本当になんていい人なんだろう。
じっくりお話ししたこと今までなかったけど。縮こまらずに思い切って接してみればこういうこともあるんだなぁ。
いつまでもじんわり感動してても挙動不審なので、慌ててなんとか感謝の言葉を口にする。
「なんか、ありがとうございます。…まあ、実際のとこ謙遜した訳でもないんですけど。お言葉はすごい嬉しいです。どうも人付き合いに慣れてなくて、不審に感じることもあると思うんですけど。そこは遠慮なく指摘して頂けたら…。どうかよろしくお願いします」
原口さんは温かい笑顔を浮かべてわたしを見返した。
「ふふ、こちらこそ。矢嶋さんって結構喋ると面白い人だよね。ちょっと見る目変わるかも。…まぁ、わたしはあなたの味方だからさ。当然幼馴染くんとの恋の行方も応援するよ」
いえいえ…、そんな、いいもんじゃないんですよ。騙してるようでそこはちょっぴり苦いけど。
彼女はわくわくを抑えきれない表情でわたしの目を覗き込んだ。
「とりあえず、今日のお昼。頑張って彼を振ってくるのよ。心を鬼にして、きっぱりとね。…情けは禁物だよ!」
…なんでそんなに嬉しそうなんですか。むしろ、あなたが鬼ですよ…。
入った店で向かい合わせに席に着くなり、ウェイトレスに手渡されたメニューに目を通すのもそこそこに筧くんは緊張気味に切り出した。
「…実は。あの後、俺のとこにあいつが来て。…篠山が」
わたしの肩も思わず強張る。
彼がやや急くような口調で説明したところによると、篠山の奴は筧くんを呼び出してお前、あの子に婚約者がいることちゃんと知ってんの?とにやにやしながらいきなり切り出したという。
わたしは頭を抱えた。…そう来たか~。
多分、奴は結局わたしにちょっかいを出すことは諦めたけど、何処か腹の虫は収まらない。
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