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それで素知らぬ振りして普通のまともな女の子みたいな顔してうっかり彼氏なんか作ろうもんなら。ただの悲劇でしょ。目も当てらんないよ」
彼はマウスを操作する手を止めようともせず平然と答えた。
「何でさ、それをきっかけにこういうとこから足を洗えるならそれでいいじゃんか。てか、そういうことでもないとなかなか抜けるチャンスもないだろ。お前もいい歳になる前に少しずつ将来というか、身の振り方を考えないと」
「余計なお世話っすね」
口を尖らせて文句を言いつつも何処か釈然としない。
「いやでも、そこで慌てて足を洗ってもさ。それまでして来たことは消えないでしょ。そこですっぱり止めたとしても過去については嘘つく訳じゃん。そんなの、相手に対する裏切りじゃないかなぁ」
筧くんの柔らかい優しい笑顔が胸に一瞬浮かぶ。ずっと隠し続けても、わたしが男たちの集団に夜な夜なされたこと、そこで歓喜の声をあげて何度もびくびく身体を震わせていったことは決してなかったことにならない。まして、何かのきっかけでそんなわたしの過去を彼が知ることになったりしたら。
想像するだに胸がぎりっと痛む。あの人はどんなに傷つくだろう。そんな酷い目には遭わせられない…。
加賀谷さんが何とも言えない色を目に浮かべてふと振り向いてわたしを見た。
「そんなこと言ってたらお前、誰とも付き合えないよ。っていうか、前のクラブかここで知り合った相手だけだな、お前の行状を既に知ってる男限定なら。会員か黒服だぞ。そんなんでいいの?」
「いや別に…、よくはないですけど。っていうか、それはそれで」
毛布を目元まで引き上げ上目遣いに考える。そんなの、想像するのもちょっと。
「こんなわたしを知ってるのに。ちゃんと付き合う相手として選んで、好きになるなんてあり得ないでしょ。そりゃ無理ってもんだよ」
加賀谷さんは首を軽く傾けた。
「何で?俺は別にそうは思わないけど。だって、お前がどんな相手とどんなセックスしてようが夜里は夜里だろ。お前自身の価値とは関係ないよ。沢山の男と変則なやり方したからって自分の値打ちが下がるみたいな考え方は下らないと思うけど」
わたしは重いため息をついた。
「加賀谷さんはそうかもしれないけど。普通、男の人ってそうは考えないと思う。好きな女の身体は自分のものなんですよきっと。過去に遡っての全部まで」
「うん、俺はそうは思わない」
彼はあっけらかんと言い放った。
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