その娘、暴君につき。

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 時刻を同じくして表の街道に場面を移す。 明るい発色の茶色をした髪を一つに束ねたそれを尻尾のように揺らしながら、キョロキョロと辺りを見渡す少女が居た。 彼女は目当てのものが見つからないのか、一度立ち止まるとフンと不満げに鼻を鳴らす。 「もーっ!どこ行ったのよアイツ‥‥ちょっと目を離した隙にフラフラと‥‥‥」    大方目新しい街並みに引き寄せられてどこかの商店に寄り道したのだろう。自分も我慢しているのに、と内心で憤りながらも視線を動かす。 彼女の探している人物は非常に目立つ外見をしてはいるものの、こう人が多くては見つけ出すのにも一苦労だ。ただでさえ人混みに慣れていないので、人の流れにさらわれないようにしながら目を凝らすのは楽ではない。  そうしてしばらく左右に首振り運動を続けていたところ、ようやく探し人らしき姿を視界の端に捉えた。 「あっ!」  手を振って呼び止めようとして、ふと様子がおかしい事に気づく。 ガラの悪い男が数人、彼女を取り囲んでいるように見えた。そしてどうやら彼女を裏路地に連れ込もうとしてーーー今まさに建物の陰に消えたことに。  すーっと血の気が引いていく。猛烈に嫌な予感、否、確信めいた直感だ。 「た、大変だわ‥‥‥!!」  誰かに助けをーーーそう思った時、屋台に立ち寄ろうとしたのか、ちょうど目の前で足を止めた男性を見つけた。 屈強な、とはいかないが、それでもそれなりに若く健康そうな、かつ人の良さそうな顔立ちだ。ともあれ細かいことに構っていられない。今は一刻も早く! 屋台を見上げて何事か思索している男性の腕を掴まえると、矢継ぎ早に捲し立てるように言葉をぶつける。 「す、すみません!!あっ、あのっ!!私の友人が路地裏に!!あっちの、あそこに変な男達と‥‥ッ!!」  突然すぎることに男性は喫驚したように目を瞬かせていたが、彼女の焦りようからただことではないと感じとったのか直ぐ様聞く姿勢を作った。 そして言葉足らずだったが、男性は彼女の伝えんとしていることを察することができた。 「お友達を助けたいんだな?」 「えっ。あ、はい、そうです!!」 「任せなさい。あっちで良かったか?」  こくりと首を振る少女に、男性は力強く頷いて返す。
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