その娘、暴君につき。

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 二人は人混みを押し退けるように掻き分け路地裏へと駆け込む。同時に吼えるように声を上げた。 「そこまでだ!!その子を離してーーぇーー」  張り上げた声がすぼむように消えていった。  はたしてそこには予想していたものとはあまりにもかけ離れた光景が広がっていた。  死屍累々ーーーーそう形容することが正しいか。 与太者どもが全員揃って虫の息で地に伏していた。ゴミ箱に頭から突っ込まれている者、前歯を叩き折られたか血だるまになって転がっている者、曲がってはいけない方向に腕を捻られてか細く呼吸をしている者。 「ば、ばけ……もの………」  そして最後の一人は今まさに胸ぐらを掴まれて脱力した状態で吊り上げられていた。 「オラ財布出せよ。社会のクズでも財布の中身くれぇは少ないなりに入ってんだろ?」  思い描いていたものとは真逆の光景。こともあろうに、連れ込まれてしまったと思っていた少女の方が大の男四人を薙ぎ倒してカツアゲ行為を行っていた。 信じられないことだが、この惨状を作り上げた人物こそが彼女なのだ。   「はっ‥‥‥‥‥‥」 「ああ‥‥手遅れだった‥‥‥」  男性はあまりの光景に思考が断線し、叫んだ時の口の形のまま呆けていた。その隣で、少女はがっくりと肩を落とした。 「ん?おお、リカじゃねぇか。」  そんな彼女に気づいたか、惨劇の中心にいたその少女は手元の与太者を放り捨てると、頬に着いた返り血を拭うと笑みを見せる。少女らしからぬ妖艶な美しさと、猛獣の牙を見せられた時のような身の毛もよだつ恐ろしき笑みを。  ここは王都エターニア。周辺諸国でも屈指の人口と経済レベル、そして穏やかな気候と治安を兼ね備えた大変住み良い環境に恵まれた街である。 そんな街で、後にこんな噂話が語られることになる。 立てば災厄、座れば仁王。歩く姿はシン・ゴリラ。 決して畏れを忘るるなかれ、決して怒りを買うことなかれーーーーー 「遅かったじゃねぇか。どこいってたんだ?」 ーーーーーーその娘、暴君につき。
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