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「赤猿が………っ!!」
反射的に口をついた悪態を残してセリカは大きく飛び退き、闇で象られた翼を羽ばたかせ上空へと逃れる。
「逃がすかよォッ!!」
もう一度足へ力を送る。この時のリザには高度な空中制御の術はなかったが、力任せにジャンプすればドラゴンの腹を貫通する速力を得られることは知っていた。
再び地面が爆ぜる。一瞬にして間合いを詰め、追撃の拳を振りかざしたところで……猛烈な虚脱感がリザを襲った。
「(なんだ? 体、重っ………)」
リザはこの時になりようやく気づいた。空中へ飛び出した己の周りを薄い闇が包み込んでいたことに。
そう考えたのも僅かのこと。腹部を襲った衝撃に思考は掻き消された。セリカの背負う翼の内のふたつがリザの反射神経を超えた速度をもって土手っ腹に叩き込まれたのだ。
苦鳴を漏らす暇すら与えられず、暴力的な勢いで地面へと落下。盛大に水しぶきを巻き上げ硬い石材を砕いて深々と沈む。
十数メートルの高さまで打ち上げられた水飛沫を浴びながら、セリカは己を害した愚か者を見下ろす。
「うふふふふふっ!! 殴ることしかできない猿が私に敵うわけないでしょ!!ざまぁないわ━━━━」
勝ち誇るセリカの笑みが凍りついた。
確実な手応えだった。その完璧な勝利宣言は余韻に浸る間もなく泥を塗られ、知らずの内に奥歯からギリッという音が鳴る。
「今のはかなり効いたぜチキショー………絶対その横っ面ひっぱたいてやっからなァ………!?」
リザは立ち上がっていた。無傷ではない。血を流す口許を拭い、恐らくは肉体へのダメージはかなり大きい。それでも彼女の闘志の火を絶やすには至らず、逆にその闘争心をたぎらせていた。
「(どんだけ頑丈なのよこの赤猿!! 今のは大人しく死んどきなさいよ!!)」
セリカさん、マジで殺しちゃうのはマズイですよ。
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