最終章『炎帝』

7/18

1464人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
「げほっ、えっほ! ヴぁー、水飲んじまったぜチクショー。」  被害の圏内から完全に逃れることのできなかったリザは、余波の水圧に煽られて瓦礫の山まで弾き飛ばされていた。  アーチェは咳き込むリザを見下ろし、足下の水面から水の龍の群れが鎌首をもたげる。 「さて、あとはお前だけか。」  水を飲み込んだ時に紛れ込んだゴミを唾と一緒に吐き捨て、犬歯を剥き出しにして獰猛に笑う。 「ハッ!! 残ったお前をぶちのめせばオレの優勝だろーが。かかってこいよセンパイ!!」  津波のような激流となり水龍が殺到。リザの四肢が振るわれる度に水で象られた龍の頭が弾け飛ぶ。拳で、脚で、ある時は炎が押し寄せる水龍を捩じ伏せていく。  火の魔法は一般に水の魔法に対して弱い。  だが圧倒的な力量を誇るリザは力業でそれを覆してきた。 彼女の炎の前では生半可な水の魔法など即座に蒸発し、今のアーチェのように身を守る水の結界に包まれた相手をそのままボイルしてやったこともある。  しかしこの場においては相手が悪すぎた。 「クソがっ……!! キリがねぇぞコラァ!!」  アーチェの防御性能が高すぎる。苛烈極まるリザの攻撃を尽くシャットアウトしていた。  相性の差、物量の差、そして地力の差である。  アーチェの水龍を掻い潜ってどうにか届かせた炎が命中しても結界の水面が揺らぐことはない。水の球体の中心でアーチェは涼しい顔をして君臨していた。  そして同時にリザを追い詰めつつあった。間合いを詰めることすら許されれず、物量に任せて攻め立てることで徐々に押し込まれて始めていた。激流に飲み込まれるのは時間の問題、アーチェはリスクを侵して楔の一撃を放り込む必要などない。ただ淡々と繰り返していけば良い。それで"詰み"だ。  ジリ貧。それはリザ自身よく理解していた。自らの状況に小さく舌打ち、それから大きく息を吸い込むと、 「だったら……!! 突っ切るしかねぇよなァ!?」  腕をクロスさせて突貫した。襲い来る水龍など意に介さない捨て身の特攻。水龍が食らいつく度に水の中に赤いものが混じり、衣服は朱に染まっていく。  しかしそれでも一歩、また一歩と前進する度にアーチェまでの距離は詰められ、代償と引き替えにそれは瞬く間に潰された。 「なっ!! ばっ、まさか攻撃を防がずにあの中を捨て身で突き破ってくるなんて━━━━ ━━━━思ってましたけどね?」
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1464人が本棚に入れています
本棚に追加