最終章『炎帝』

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 怪物の卵とは言え、所詮はまだ学園に入ったばかりの尻尾も取れていない赤子の蛙になど遅れを取る筈がないという、至極当然な"驕り"。それが見過ごしてはいけなかった筈の隙を生んでいた。  セリカとて無傷ではない。頭からは血を流し、服装は水浸しで普段の優美さの欠片もない。 それでもセリカ=ノーブルド=ノワールは立っていた。殺意に爛々と目を光らせ、おぞましいほどの魔力を従えて。 「なっ━━━━━」  気づけば周りには黒い鴉の羽のようなものが舞っていた。水の球体を更に覆う無数の黒い羽はまるでつむじ風に弄ばれる木葉のように取り囲み、 「消えなさい。」  黒い羽が黒閃となって辺りを飲み込んだ。  音は生まれない静かなる破壊であった。黒い羽のその内においては肉も骨も空気すらも、存在する一切のものが残らない。あらゆるものが消滅した。  ただ一つのものを除いて。 「はぁっ、はぁっ……はぁ………!」  アーチェの防御力は辛うじて拮抗していた。  膨大な魔力を注ぎ込んだ身を守る水の結界の大半が消滅し、球体はいまや人間二人を収めるのがやっとな大きさにまで萎んでしまっていた。  そう、残っているのは二人である。 「(うはははは!! 作戦どーりっ!! 悪いなぁ先輩!オレまで守ってもらっちまって!!)」  水中でガボガボ言ってるだけなので正しくは伝わらないが、だいたいこのような内容だろう。皮肉にもアーチェと同じ水球の結界内に囚われていたおかげで、リザはちゃっかり黒の脅威から守ってもらうことができた。 「このクソ猿………!!」  消耗し息を切らすアーチェのこみかみに青筋が浮かぶ。咄嗟のこと過ぎて余分なものを切り離す余裕が無かったことが実に悔やまれる。 「(そして水が減って動きやすくなったぜ………)」  リザはアーチェの防御能力を信頼していた。この女の能力ならば必ずセリカの攻撃をも防ぎきると。だからリザは防御はアーチェに任せ、自分はじっくりと準備をしていた。  ━━━━反撃の一打の、その準備を。
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