最終章『炎帝』

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 それは今までの勢い任せの攻撃とは一線を画するもの。拳を深く腰だめに構え、時間を使って練り上げたものを、全身にみなぎる膂力と魔力と暴力の全てをその鉄拳に集中させる。 「(不、味、避け━━━━)」 「お礼を受け取りなァセンパイ!!」  回避も防御も許さない致命の一打が滑り込み、想像を絶する衝撃が水の護りの内から炸裂した。  水の球体を内側から食い破るように炎が弾け、獅子のたてがみの如く広がった。反動だけで周囲の水球が消し飛び、直撃を受けたアーチェはピンポン玉のようにすっ飛んでいく。  三十メートル近い距離を瞬き一つするよりも速く突き抜け、建物の外壁の残骸に着弾。硬い瓦礫が大きくひび割れ中程まで体がめり込む程の、四肢が千切れ飛んだのかと思うほどの衝撃が全身をくまなく叩いた。 「が、はっ………!!」  血の混ざったような息が肺から吐き出され、アーチェの視界が明滅する。のたうち回りたいほどの苦痛に苛まれるも、体への信号は完全に断ち切られている。  水の護りをセリカの大技が崩し、至近距離からリザが一撃叩き込む。期せずして一年生の連携プレーでアーチェに一矢を報いた訳だ。  しかしながらセリカがその瞬間を見届けることは叶わなかった。 「(くっ! 蒸発した水のせいで蒸気が、霧が………!! 濃すぎて見えない! 奴らはどうなって━━━っ!!)」  リザの一発はアーチェの防御壁を打ち砕くと同時に、高熱で辺りの水を蒸発させていた。さらに爆風が霧を運ぶことで辺り一帯に視界が効かないほどの蒸気の霧が立ち込めていた。  軋む体に鞭を打って短杖に力を込め、セリカは自身を中心に黒煙のような薄い闇を展開する。  この薄闇……魔法の名もつけられていないセリカのオリジナル。これは見た目に反し凶悪な性能を持つ万能フィールドだ。領域の奥に踏み込むほどにあらゆる能力が減衰し、体力も魔力も虫ケラ同然まで衰弱させられる。 先の攻防でリザの身体能力を封じたものと同じ魔法である。手負いの人間などここに一歩踏み込んだ瞬間卒倒モノ、仮に動けたとしても薄闇に張り巡らされた魔力の流れで直ぐに捕捉することが可能だ。
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