最終章『炎帝』

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「(どこから来る……? ヤツなら必ず来る!! ここを逃すようなタマじゃない!!)」  視界の働かない濃霧の中、視線を忙しなく動かして影を探る。何も捉えることはできないが、そうしなければ精神を焦燥に焼ききられそうだったからだ。  霧に視界が遮られて数秒か、それとももっと短い時間だったのか、薄闇に反応があった。 「っるぁあああああああああッ!!!」  霧のカーテンをぶち破り、咆哮と共にリザが躍り出た。  小細工無用の正面突破。彼女の性格通りの直球勝負だった。何の事はない、警戒していた展開より数段劣る考え無しの突進だ。 「(なっ、こ、馬鹿っ………速すぎるっ!!)」  ただしそれは常識に当てはまるスピードではなかった。  薄闇の影響で能力がガタ落ちしている筈なのに、それの影響をまるで感じさせない動き。セリカの経験において生物ではおおよそあり得ない挙動だっ た。  迎撃が間に合わない。力任せの大振りの一撃……だがそれを徒手で捌く技術をセリカは持ち合わせてはいなかった。出来ることは苦し紛れに腕を上げることだけで━━━━  ボキン!と嫌な音が骨を通じて頭蓋に届いた。 「ぐぅううううううううううう!!」  拳を受けた腕は間接が一つ増えたように中程で折れ曲がっていた。そこを起点に白い骨が肉を突き破って飛び出し、傷口から噴き出した血飛沫が頬を濡らす。  割れ金を叩くような強烈なシグナルがキンキンと頭蓋の中を反射する。感じたことなどない耐え難き危険信号。意識を手放しそうになるほどのけたたましいアラート。 「うううあああああ離、れろォっ!!!」  激痛を拒絶するように声を張り上げ、リザに向かって闇の槍を連射する。  がむしゃらに打ち出した槍は数発空転するもほとんどが命中。防御など考えてもいなかったリザはゴミクズ同然に吹き飛ばされ、地面を何度も転がりながら滑っていった。
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