最終章『炎帝』

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 精神が肉体を凌駕した三人が纏う魔力は今までよりも更に大きく、そして禍々しく吹き荒れていた。  炎が、闇が、水が……大災害を撒き散らす悪しき龍のように飛び乱れる。あれらか喰らい合いを始めれば眼下の街に多大なる被害をもたらすであろうことは想像に難くない。その時である 「いや、街はやめてくれないかな?」  横合いから声が降ってきた。それに続きアーチェの足下の地面が隆起し、肋骨にも似た石柱が鉄格子の檻のように彼女を包囲。  一瞬の出来事、早業に驚く暇もなく、同時に炎と闇が銀閃に切り裂かれた。 「なんっ………!?」 「うおぉお!!?」 「随分楽しそうにしているな。」  聞き覚えのある声だった。ここ数ヶ月で耳にタコができるほと説教を受けた声。聞くものが聞けば失禁して震え上がる濁った凄みのある声。  そのゴツゴツとした古傷まみれの手には装飾の少ない白鞘で拵えられた長ドスが握られている。生徒には素手で対応することが密かなモットーであるところの彼が持ち出した本気の武装だった。  鬼の生徒指導ジャック=ローガン。そして最高責任者たる学園長の到着であった。 「リカぁぁーーっ!! テメェ裏切りやがったなチクショウ!!」  わなわなと震え、リザの叫びが響き渡る。 「ごめんなさいねリザ。私には止められないから止められる人を呼ばせてもらったわ。悪く思わないでね、これは市民の義務よ。」  そこから離れた瓦礫の影、功労者であるリカは額に汗を浮かべながら崩れた建物にもたれ掛かっていた。  リザ達を止めることが不可能といち早く悟ったリカは、王都の端っこに至るまで自身の風を届かせ、そこに声を乗せることで周囲への避難勧告と救援要請を行っていたのだ。  ローガン達が現場からかなり離れた位置に居たこと、大掛かりな術式のため構築に手間取ったことで被害は避けられなかったが、それでも最悪の事態の寸前で食い止めることが出来たわけだ。  彼女の迅速な手配がなければ王都の半分が地図から消える事態になっていてもおかしくはなかっただろう。
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