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例の大喧嘩の翌々日。国王カインの執務室では被害の調査諸々を済ませた文官が報告書を読み上げていた。
「…………報告は以上になります」
手にした書類を読み上げていた男は一歩下がる。
その表情は重く、報告書の内容がどれだけ悪いものであったのかがありありと浮かんでいた。
事の顛末、そして被害の状況について報告した訳だが、自分で喋りながら何の冗談だと思ってしまうほどの惨状だ。しかしそれが残念なことに冗談でも誇張でも無いということはバルコニーから街を見れば一目瞭然であった。
あの惨劇を産み出したのが人間の手によるものだということが今でも信じられない。もしも学園の職員達が仲裁に入るのがあと少し遅れていたらと思うと背筋に裏寒いものが走る。
「……陛下、あまりお心を痛めなさらぬよう……物的被害は甚大でありますが、不幸中の幸いと言うべきか民に人死にだけは出ておりません」
自分が報告した被害のあまりの内容に、気遣わしげに眉を下げて言葉を添える。
「素晴らしい。」
「………は?」
しかしカインの返答は想像とは全く異なるものだった。
その口許には意味深な微笑すら浮かべており、発言した文官は思わず無礼ともとれるような声を出してしまう。
「ライナ君」
「はっ!」
「君の後輩は実に頼もしいな。若く良い人材が育っているようじゃないか」
「………は、申し訳ございません……」
沈痛な面持ちで俯くライナ。国王カインは鷹揚に手を振って笑うと、
「誰も君を責めてはいないよ。実際関係無いし。
ところで君は件の女学生に会ったことがあるとか?彼女のことについて私に教えてはくれないか」
「承知致しました。では僭越ながら私の口から失礼致します」
ライナは語り始めた。口に出すのも憚れる怪物の話を。
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