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海風が彼の顔を撫でる、あまり涼しくもないそれだが家に帰っても今時クーラーもついていない時代錯誤的な住まいが待ち受けている以上、彼にとっては心地よかった
それに彼がここで釣りをする理由は何も避暑のためだけではなかった
「おー、釣れてるかいお兄さん?」
「ボウズだな」
「どういう意味だい?」
「何も釣れてないってことだ、ハゲ頭の坊主には髪の毛一本もないだろ?」
「なるほど」
彼に話しかけたのは緑色の水中ゴーグルをつけ、夏だというのにフード付きのパーカーに長ズボンを穿き、片手には釣竿を持った子供、きっちりフードも被っている
背丈からして中学生くらいであろう、子供は彼の隣に座り釣り糸を垂らした
「それで、今日は何考えてるんだ?」
「人の価値についてだよ」
「それはまた、めんどくさいことを考えるな」
「でも付き合ってくれるんでしょ?」
「暇だからな」
彼はこの子供が中学生、特に2年生の時期に特有の病により考えるような他愛のない話に付き合うのが好きだった、暇つぶしにちょうど良かったのだろう、彼と子供が出会ったときのことについては今は割愛する
「例えばさ、働いている人、総理大臣でもテレビのニュースキャスターでも漁師でもゴミ掃除のアルバイトでも、誰かの役にたってるわけだから大きい小さいは置いといても価値はあると思うんだ」
「そうだな」
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