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「ああ、あやつの霊は残っておったな。相当に口惜しかったのだろうな」
「でしょうね……それにしても、あんな姿で……」
「うむ。しかし、杉村の霊は何も言わなんだ。ただ何やら叫んでいるだけで……梓?」
「杉村さんは、口惜しさと怒りで満たされて……首を切られた苦痛を感じながら怨霊になりかけていました」
そう、殺人現場を支配していたのは杉村の口惜しさだった。その怒りや悲しみの入り混じった慟哭は梓の感情に強烈に働きかけ、梓はその場で立ちすくんで耳を覆い、暫く動けなかった。梓は十七歳ではあるが、その経験は並の霊能者とは比較にならない。除霊に関しては、今まで様々な霊を見聞きし、祓ってきたスペシャリストだ。そんな梓が杉村の霊が発する憤り、嘆き、そして無念さに圧倒され、暫く動けなかった。それほどまでに杉村の、この事件に対する執念が凄まじかったのだ。
「ああ。だから、さっさと送ってしまったのであったな」
「はい……あれではあまりに悲惨でしたから。杉村さん……死に際に必死に残した手掛かり、無駄にはしないです」
杉村の、この事件を解決しようという思いは怨霊になりかけるほどに凄まじいという事を、梓は杉村の霊を通して感じてしまった。
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