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「顔を上げな」
思いのほか、柔らかい口調だったからであろう。
男のホッとしたような顔が自分を見上げた瞬間、唾を吐きかけると仕事を再開した。
「残念だったな。前回が最終通告だ。今日、何が何でもアンタから金を回収してこいって、上のモンが言うんでね。金が用意出来なきゃ……わかってるだろ?」
腹の底から響くような低い声を出せば、流石に彼も言葉の意味を理解したらしい。
一気に顔を青ざめさせ、喉を「ヒュッ」を鳴らした。
「飯島っ! 田辺っ!」
玄関の外に待機させている舎弟の名を大声で叫ぶ。
素早く逃げようとする男。
首根っこをひっ捕まえ、腹に拳を何度も打ち込む飯島と田辺。
「うぐっごふっ」と、鈍い呻き声を上げて意識を失った男をガタイのいい田辺が担ぎ上げ、すぐ傍に停めておいた車のトランクへと放り込む。
「さぁて……これからが本番だ」
運転席と助手席に、二人がそれぞれ乗り込んだのも確認し、俺は溜息混じりに呟いた。
これからが本当の意味での自分達の仕事。
この世で、一番ゲスで凶悪な労働が待っている。
俺を雇っている会社は、どの銀行も、どの消費者金融も断るほどの多重債務者や、ブラックであっても融資してやる【優しい】ヤミ金だ。
その分、リスクをしょってるわけだから、高利で貸し付けするのは当然のこと。
それだけではなく、うちから金を借りる債務者には、必ず生命保険に入って貰う。
そうすりゃ、とりっぱぐれもないし、家族に迷惑しかかけてこなかった人間が、自分の命で金を残してやれる。
クズを抹消することで、社会貢献や人助けにもなる素敵な仕事だ。
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