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とはいえ、どんなにダメなヤツでも、どんなに腐ったヤツでも人は人。
俺達だって赤い血が流れた同じ人間。
仕事とはいえ、あまり気持ちのいいもんじゃぁない。
――――事故に見せかけて、人一人の命を奪うなんてこと、誰だってやりたくはない。
いつかは地獄に落ちるなと、自嘲気味に笑うと、バックミラー越しに飯島と目が合った。
強面の顔を僅かに歪ませ、慣れない笑みを浮かべた彼もまた、俺と同じ気持ちなのだろう。
この手を一度でも血で染めてしまった俺達には、「嫌だ」「やめたい」「無理だ」なんて弱音を吐く事すら許されない。
この世界の闇に囚われ、そのうち頭までどっぷりと浸かって息することも出来ずに、もがき苦しむことは目に見えている。
けれど、俺達はこうやって生きていくことしか出来ない不器用な人間なんだと、自分に言い聞かせた。
信号待ちの間、ふと窓の外に目をやると、流行りの服に身を包んだ女の子が二人、何の悩みも無さそうに大きな口を開けて笑っている姿が飛び込んで来た。
自分も彼女達のように可愛らしい顔で生まれていたら、きっと人生が変わっていたのかもしれない。
ガラスに反射するゴツゴツした輪郭に、鋭い目つき……まさに凶悪を絵にかいたような自分の顔を横目で確認すると、嫌な思い出ばかりが頭を過る。
保育園の時も、子供同士の喧嘩だというのに、決まって大人は一人よりも図体がデカくて、ふてぶてしい顔をした俺ばかりを叱った。
小学生の時は、近所の本屋で立ち読みをしていただけなのに、「いかにも悪さをしそう」な顔つきだからと、万引きを疑われ、中学に上がれば、上級生に絡まれ、何もしなくても教師には目をつけられた。
俺から手を出したり、睨んだことなんてない。
ただ、生まれつきの大きな体と、怖い顔ってだけで俺の人生は滅茶苦茶だ。
「あ~あ……せめて女に生まれてりゃ、ちったぁマシな人生だったのかもな」
ポツリと呟いた言葉は、信号が青へと変わり、噴かされたエンジン音でかき消された。
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