第Ⅰ部 「現代編」  第一話 光源氏なんて大嫌い!

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「なんだコイツ!?絶対調子こいてるよ。こんな男のどこが良いんだ?」 理乃は憤慨していた。思わずページを捲る手に力が入る。 彼女は今、源氏物語異聞を読んでいるのだ。 「やっぱり光源氏、酷い男だな…。『君は特別なんだ』と 好きな男の浮気の赤裸々話を、聞かされて嬉しい女がどこに居るよ? だから、心労で紫の上は病気になっちゃったんじゃん」 怒りは治まる様子は無い。それどころか興奮する一方のようだ。 イライラと前髪を掻きあげる。 背中まで伸ばされた焦げ茶色の髪は、 癖毛の為わざとルーズなおさげにしている。 肌の色は特別白くも黒くも無く、平均的な日本人の肌色だ。 中肉中背、高くも低くも無い鼻、大きくも小さくも無い唇。 卵型の顔の輪郭、至って日本人の平均的な顔立ちだが、 唯一、 大きくて丸い、黒目がちの目が印象的だった。 今、風呂上がりの寛ぎの時間なのだ。 白い半袖Tシャツ、 グレーのスエット姿が、彼女だけの時間である事を物語っている。 さて、どうしてこのような経緯になったか? その経緯を説明しよう。 五十嵐理乃(いがらしりの)は高校1年生。 ルーンとタロット占い、そして 小説を書く事が大好きなアマチュアネット小説家である。 所属する部活は「ライトノベル小説部」で、 活動は月~木曜日の授業が終わってから約二時間。 何の事は無い。 各自与えられたパソコン、もしくは自身の携帯で 好きなように各自登録した小説投稿サイトに、 自由気ままに投稿するだけでのゆるーい部活だ。 幼い頃から、文学小説が大好きだった。 そして空想と物語を書く事が大好きで、将来は小説家になる事が夢だった。 …だった。この若さで早くも過去形とは…。 いや、まだ完全に諦めている訳では無かったが…。 では、その過去形の理由を話そう。 二つ年上の姉、舞(まい)は、既に作家としてデビューしていた。 しかも、大ヒット大ブレイク中なのだ。 理乃が小説投稿サイトに登録したのは今から約2年程前。 姉が登録したのは半年前。 姉は特に作家に興味は無かったが、文章力が素晴らしい! と担任に小説投稿サイトを勧められたのが切っ掛けだ。 そこでたまたま行っていたのが、大手出版社協賛のコンテスト。 軽い気持ちで応募した小説が、 一次を通過した上に大賞を取ってしまったのだ! 書籍化され、アッという間に重版。映画化、ドラマ化の話まで来ている。
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