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「なんだコイツ!?絶対調子こいてるよ。こんな男のどこが良いんだ?」
理乃は憤慨していた。思わずページを捲る手に力が入る。
彼女は今、源氏物語異聞を読んでいるのだ。
「やっぱり光源氏、酷い男だな…。『君は特別なんだ』と
好きな男の浮気の赤裸々話を、聞かされて嬉しい女がどこに居るよ?
だから、心労で紫の上は病気になっちゃったんじゃん」
怒りは治まる様子は無い。それどころか興奮する一方のようだ。
イライラと前髪を掻きあげる。
背中まで伸ばされた焦げ茶色の髪は、
癖毛の為わざとルーズなおさげにしている。
肌の色は特別白くも黒くも無く、平均的な日本人の肌色だ。
中肉中背、高くも低くも無い鼻、大きくも小さくも無い唇。
卵型の顔の輪郭、至って日本人の平均的な顔立ちだが、
唯一、
大きくて丸い、黒目がちの目が印象的だった。
今、風呂上がりの寛ぎの時間なのだ。
白い半袖Tシャツ、
グレーのスエット姿が、彼女だけの時間である事を物語っている。
さて、どうしてこのような経緯になったか?
その経緯を説明しよう。
五十嵐理乃(いがらしりの)は高校1年生。
ルーンとタロット占い、そして
小説を書く事が大好きなアマチュアネット小説家である。
所属する部活は「ライトノベル小説部」で、
活動は月~木曜日の授業が終わってから約二時間。
何の事は無い。
各自与えられたパソコン、もしくは自身の携帯で
好きなように各自登録した小説投稿サイトに、
自由気ままに投稿するだけでのゆるーい部活だ。
幼い頃から、文学小説が大好きだった。
そして空想と物語を書く事が大好きで、将来は小説家になる事が夢だった。
…だった。この若さで早くも過去形とは…。
いや、まだ完全に諦めている訳では無かったが…。
では、その過去形の理由を話そう。
二つ年上の姉、舞(まい)は、既に作家としてデビューしていた。
しかも、大ヒット大ブレイク中なのだ。
理乃が小説投稿サイトに登録したのは今から約2年程前。
姉が登録したのは半年前。
姉は特に作家に興味は無かったが、文章力が素晴らしい!
と担任に小説投稿サイトを勧められたのが切っ掛けだ。
そこでたまたま行っていたのが、大手出版社協賛のコンテスト。
軽い気持ちで応募した小説が、
一次を通過した上に大賞を取ってしまったのだ!
書籍化され、アッという間に重版。映画化、ドラマ化の話まで来ている。
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