第四十二話 占合②

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 理乃はそれを読むなり、ニヤリと笑った。そして羽矢人に首を強く横に振ってみせる。 (リノ様?)  羽矢人は驚く。そして同時にほんの少し戸惑いを覚えた。理乃があまりにも清々しい程の笑みを浮かべていたからだ。そしてそれは堂々としていて迷いの影は見えない。 (あぁ、そうか……)    すぐに納得した。理乃はこの状況がどうであれ、完全に楽しんでいるのだ。 (それなら、私のやるべき事はただ一つ!)  羽矢人は笑みを浮かべ、大きく頷いてこたえた。親王は垂水と推名を相手に擦り変えられた中身について問い詰めている。 「いや、その。何かの手違いだとしか……」 「では、中身はリノ殿が言っていたもので間違いは無い、という事であるな?」 「え、ええ……」  親王との対話に辟易し、推名に救いを求める視線を向ける垂水。そしが知るか、とばかりにプイッと横を向く推名。親王はやれやれと首を横に振り、肩をすくめた。 「あの、お取り込み中のところ失礼しますが……」  理乃はそう話しかけながら立ちあがった。全員が理乃に注目する。 (うわぁ、こういう注目も悪く無いわね。良い意味で注目されるの、これがきっと最初で最後かも) 「今回の事は、初めての試みで色々と混乱が生じた為の手違いでしょう。致し方ないと思います。今回は私も椎名様も正解で結果は引き分けという事で宜しいですよね?」 「え? えぇ、はい、それはもう……」 「それは勿論!」  しどろもどろになりつつ曖昧に応じる垂水に、笑顔で力強く答える親王。理乃は親王に頭を下げると、迷わず垂水と会話を進める。 「では、次の術比べに進みましょう。次は実際に相談者を前に卜う、のですよね?」 「え、ええ。その通りで」 「相談者は、そちらで指定された方を私が、羽矢人が指定した方をそちらが、という事ですが、その相談者は予め指定した方々の中から指定するのでしょうか?」 「はい、左様でございます」  それを聞いて理乃はニヤリと笑った。 「その相談者ですが、そちらが指定して頂いた方ではなく、この会場の周りにこっそりと集まって見物してらっしゃる方々の中から、親王に選んで頂く、というのは如何でしょうか?」  よく通る澄んだ声が、会場中に響き渡る。見物客からも陰陽師側からも騒めきが起こった。
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