【ep:1】月よりひそかに

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 スウッと霊たちが消えていく。皆一様に、彼に憐みの視線を突き刺しながら。 「…………」 「……だから誤解だっつの……」  深く深くため息をつき、彼は細目でミイラ夢亞をチラと流し見た。 「……おひとり暮らしではなかったのですね。あんなに多くの霊たちに取り憑かれていらして……」 「取り憑かれてるっつーか。……ちっ」  すると彼の細目がググッと見開かれていき、身体が霞み始めた。 「え……っ?」  透き通った身体が徐々に下へ下へと集約していき、やがて夢亞の足元に現れたのは一匹の黒猫。 「さっきの黒ネコさん……?」 「俺は仙狸(せんり)。いわゆる猫又……長生きしすぎて妖力を持っちまった化け猫だよ」  最初に出会った時は一本だった尻尾が、フワッと二本に分かれる。 「長く生きてるうちに、恨みつらみを抱えて死んだあいつらを拾う羽目になってな。ああ見えても全部悪霊の類だ。気が晴れるまで成仏できない」 「せんりネコさん……」  呟いた夢亞に、黒猫がニャアと笑う。 「おかしいだろそれ。人間の姿の時は、千の里と書いて千里と名乗ってる」 「目を開いた時のあなたが意外にもイケメンだったので驚きました……」
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