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ヒョイと足元の千里を抱え上げ、夢亞はまじまじと彼の猫顔を覗き込んだ。
「……おまえの吃驚スイッチはソコか」
「あ、でもお構いなく。特に好みではありませんゆえ」
「俺もペラ乳ロリ系、飢えるとミイラになる魔物女に興味はニャい。初めて話が噛み合ったな」
件のペラ乳をぺシ!と肉球で叩き、千里は鼻先を庭に面した窓に向けた。
「この猫又坂に住み着いて以来、俺は静かにひっそり生きてる。あのお月さんみてぇに」
夜空にはぽっかりと浮かんだ白い満月。その淡い光がさやさやと千里のヒゲを撫でていく。
「静かに、ではないでしょう。たくさんのお友達に憑かれて賑やかではありませんか」
「いや、友達でもニャんでもねぇし」
ついと夢亞も月を見上げ、独り言のように続けた。
「わたくしはずっとひとりです。ひとりこの世でただ生きる為に人の生き血をすすり、時を費やしているだけ」
「ん? 親はどうした」
「母は日本人で普通の人間でしたから、とうの昔に亡くなりました。父は故郷で生きているでしょう。そう簡単に死ねる体質でもありませんし」
夜空を眺めながらも、夢亞の瞳に映るのは月ではない。それはきっと遠い何時か。
「父の正体を知った母は、わたくしを連れて日本へ帰国しました。そんな事をしても父の血を引く娘の体質はどうにもならないのに」
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