【ep:1】月よりひそかに

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 ヒョイと足元の千里を抱え上げ、夢亞はまじまじと彼の猫顔を覗き込んだ。 「……おまえの吃驚(びっくり)スイッチはソコか」 「あ、でもお構いなく。特に好みではありませんゆえ」 「俺もペラ(ちち)ロリ系、飢えるとミイラになる魔物女に興味はニャい。初めて話が噛み合ったな」  (くだん)のペラ乳をぺシ!と肉球で叩き、千里は鼻先を庭に面した窓に向けた。 「この猫又坂に住み着いて以来、俺は静かにひっそり生きてる。あのお月さんみてぇに」  夜空にはぽっかりと浮かんだ白い満月。その淡い光がさやさやと千里のヒゲを撫でていく。 「静かに、ではないでしょう。たくさんのお友達に憑かれて賑やかではありませんか」 「いや、友達でもニャんでもねぇし」  ついと夢亞も月を見上げ、独り言のように続けた。 「わたくしはずっとひとりです。ひとりこの世でただ生きる為に人の生き血をすすり、時を費やしているだけ」 「ん? 親はどうした」 「母は日本人で普通の人間でしたから、とうの昔に亡くなりました。父は故郷(ルーマニア)で生きているでしょう。そう簡単に死ねる体質でもありませんし」  夜空を眺めながらも、夢亞の瞳に映るのは月ではない。それはきっと遠い何時(いつ)か。 「父の正体を知った母は、わたくしを連れて日本へ帰国しました。そんな事をしても父の血を引く娘の体質はどうにもならないのに」
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