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ニャア、と猫の鳴き声で千里が応える。否定なのか肯定なのか、それともただの相槌なのか。
「わたくし、神戸にいましたの。ある日見知らぬ男性に豪華客船でのクルージングに誘われて東京へ。つい途中でその方の血を頂いてしまったけれど」
「ニャニャーン?」
「え? 無差別も何も。千里だって叉焼の材料の豚さんが善良な豚か悪い豚かで食べる食べないを決めたりはしないでしょう?」
ミイラがコロコロと可愛らしく笑う。いや、決して可愛くは……ない。
「どちらにしても、誰かと一緒にいてもいずれはわたくしの食糧になりますもの。すぐに一人になってしまいます」
「寂しいのか」
笑っていた夢亞から、にわかにその笑顔が消える。
「……別に。平気ですわ。もう慣れましたから」
「ひとりの寂しさってのはな」
伸び上がって、千里が夢亞の鼻にポニュッと肉球を押し当てた。
「慣れる事はあっても、平気にはならねえもんだ」
「…………!」
ポチャン……と、流しのシンクに落ちる水滴。窪んだ夢亞の瞳が、目の前の黒猫を映して頼りなく揺れる。
「だから俺も次々にあいつらみたいなのを拾っちまうのかもしれん……」
「だったらわたくしも拾ってください」
「ん。それは断る。目障りだ、さっさと出ていけ」
クワッとミイラが目を吊り上げた。
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