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「思わせぶりな発言をぉぉ! 無邪気なわたくしのハートを弄びましたわね!?」
「存在は邪気の塊だろーが。てめぇの食事の殺り方は目立つ。俺のヒゲが”関わるな”とビンビン反応してるんだ」
「そこですわ。お食事は一日一回、千里の血をほんのひと吸いチュウッと。ヒトチュウで保ちます」
「ピカチュウっぽく言ってんじゃねぇ。ムリ」
「むきーー!」
ピンポーン!
突然鳴り響いた玄関チャイムに、化け猫と魔物のイザコザがピタリとやんだ。
「……なんだ? こんな真夜中に」
「非常識ですわね。ただの誤作動ではありませんの? このお家ったら古いわくたびれてるわで、まるで死にぞこないの風情ですもの」
「お前が非常識を語る事は許さん」
スチャ!と夢亞の腕から飛び降りた千里が、再び人の姿に戻りながら玄関に足を向ける。
「おい、出てくんなよ。そこでじっとしてろ」
ミイラがプウッと頬を膨らませ、口を尖らせた。確かに出ていったら大騒ぎだ。
薄暗い縦格子の玄関引き戸、その向こうに微かに映るシルエットはどうやら男のもの。千里はスニーカーを引っかけ、戸を細く開けた。
「なんっすか、こんな夜中に」
その途端、隙間にガツッ!と男の靴先が差し込まれ、慌てて戸を押さえる。
「……開けろ、小僧。中にこの娘がいるはずだ」
細い隙間の向こうには三十がらみのスーツ姿の男、そして一枚の写真が突き付けられた。
「…………げ」
それはこちらを見つめ、はにかんだようにほんのり笑う夢亞。
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