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大都会のコクーンからふと抜け出した文京区千石の夜。この辺りは昔ながらの生活の匂いが所々斑に残っている。
さながら、シュタイフ社製テディベアの山の中にモンチッチが混じっているような。
「……う……っ」
そんな町に緩やかに延びる坂道、通称“猫又坂”にある『猫又坂公園公衆便所』のポーチに少女は倒れていた。
ベーシックな黒の制服、絹のように細く長い黒髪に華奢な肢体。真夜中であるせいか、闇に溶けるように横たわる彼女に気付く者はいない。
……たまたま公衆便所の前を通りかかった黒猫以外は。
「ああ……黒ネコさん、どうか助けを……。誰かに、いたいけな少女のわたくしが倒れていることを伝えて……」
『ニャア』
「……やなこった、って言いましたわね? そんな冷たい……アナタとわたくしは同類ではありませんか……」
その一言を絞り出し、少女はパタンと気を失ってしまった。
シッポをピンと立てた黒猫は軽やかにその場を通り過ぎ、町の闇に溶けていく。
しばらくの後、一人の青年が猫又坂を上がって来て……少女を小脇に抱えて公衆便所を後にした。
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