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「──……うぅ……。……う?」
目を覚ました少女が転がされていたのは、同じコンクリートの上でも公衆便所のポーチではなく、古い日本家屋の玄関先だった。
ぐるりと周囲を見渡せば、そこは雑草が我が物顔で生い茂る庭の中で、目の前の玄関引き戸は開いている。
「あのぅ……」
引き戸の外から家の中に声をかけてみる。
玄関の中には男物のスニーカーがあり、上がり框には濡れ雑巾。廊下の奥から煌々と明かりが漏れていた。
『ニャア』
「まあ、あの時の黒ネコさん。あなたがご主人様を呼んでわたくしをここまで?」
廊下に出てきた黒猫は、すぐに踵を返して奥の部屋に引っ込んでしまう。だがほどなくして、家人と思しき青年が玄関にヒョイと顔を出した。
年のころはハタチを越えて数年と言ったところか。くたびれたジーンズとよれたシャツ、表情の無い相貌の目は糸のように細い。
「ごきげんよう……。あの、あなたがわたくしを拾ってくださり、この寒空に玄関先の冷たいコンクリートに転がした方ですか?」
「……皮肉になってない。なぜかその玄関先からどうやっても入らなかった」
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