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「あ、それはそうです。わたくしは家人に『どうぞ』と招かれなければ、その家の結界に阻まれて中には入れない体質ですから」
「…………」
ただでさえ細い目が、さらに怪訝に細められる。
「ではとりあえずお願いします」
少女がスウッとゆるく両手を広げて目を閉じる。
「お願い、とは?」
「ですから、『どうぞ』とおっしゃってください。でなければわたくし、あなたのお家でお食事をごちそうになれません。餓死する寸前ですのに」
「……食ったら出ていけよ」
青年は小さく『どうぞ』と呟いて部屋の奥へと引っ込んでしまった。
パチッとつぶらな目を開き、少女はゆっくりと引き戸を通り抜けて家の中へ。
框に上がり、廊下を行くと台所がある。続きの部屋は床の間をしつらえた広い居間で、ちゃぶ台とテレビくらいしかない殺風景な空間だ。
その端にちょこんと座り、少女は台所で湯を沸かし始めた男に声をかけた。
「わたくしは夢亞と申します。この度は行き倒れのわたくしを拾ってくださり感謝に耐えません……」
ペコンと頭を下げると、男がゆるりと振り返る。
「お前、なんだ?」
「はい?」
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