【ep:1】月よりひそかに

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「あ、それはそうです。わたくしは家人に『どうぞ』と招かれなければ、その家の結界に阻まれて中には入れない体質ですから」 「…………」  ただでさえ細い目が、さらに怪訝に細められる。 「ではとりあえずお願いします」  少女がスウッとゆるく両手を広げて目を閉じる。 「お願い、とは?」 「ですから、『どうぞ』とおっしゃってください。でなければわたくし、あなたのお家でお食事をごちそうになれません。餓死する寸前ですのに」 「……食ったら出ていけよ」  青年は小さく『どうぞ』と呟いて部屋の奥へと引っ込んでしまった。  パチッとつぶらな目を開き、少女はゆっくりと引き戸を通り抜けて家の中へ。  框に上がり、廊下を行くと台所がある。続きの部屋は床の間をしつらえた広い居間で、ちゃぶ台とテレビくらいしかない殺風景な空間だ。  その端にちょこんと座り、少女は台所で湯を沸かし始めた男に声をかけた。 「わたくしは夢亞(めあ)と申します。この度は行き倒れのわたくしを拾ってくださり感謝に耐えません……」  ペコンと頭を下げると、男がゆるりと振り返る。 「お前、なんだ?」 「はい?」 image=508783274.jpg
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