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「まあなんでもいい、食ったら出て行け。やっかいゴトはごめんだ」
「…………」
部屋の隅に鎮座したテレビが、深夜のニュースで居間を静かに満たしていく。
小鍋で湯が沸き、コポコポシューという音が無機質なアナウンサーの声と混じり合う。
「お前、塩ラーメンと味噌、どっちがいい? そんなもんしかないが、確かチャーシューがあったと……」
冷蔵庫を覗き込む彼の背中が、突然後ろからキュッと抱きしめられた。
「……インスタント食品は苦手です」
男が肩越しに振り返ると、ついさっきまで居間にいたはずの夢亞がいつの間にか背中に貼り付いている。
【──昨日未明、熱海沖を航行中の小型漁船”新海丸”が男性とみられる遺体を引き上げていたことがわかりました……】
テレビから漏れ聞こえるニュースキャスターの淡々とした声が、二人をゆっくりと取り巻いていく。
「お前……」
続く言葉を遮るように、夢亞の片手が男の口をそっと塞いで頬を掴んだ。
潤んだつぶらな瞳と切れ長な細目が、逸らすことなく見つめ合う。
【所持品などから遺体は二週間ほど前から捜索願が出されていた神戸市在住の会社員太田崇さん(33)とみられています。遺体は頬骨が折れており、なんらかの原因で海に落ちた時に岩礁に……】
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