【ep:1】月よりひそかに

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「……それにわたくしが欲しいのは、食べ物ではなく」  つっと爪先立ち、濡れた桜色の唇が彼の首筋に触れ…… 「Vreau sange(血が欲しい)」  総頚動脈に夢亞が突き立てたのは、可愛らしい唇から剥きだした犬歯。 「──っ!?」  その刹那、彼女のこめかみに彼のグーパンが飛んでバゴン!  首が真横に90°(きょう)折れ曲がってボギン!!  「ウゴッ……?」  首が倒れ、肩に完全に頭を乗せたまま夢亞が茫然と立ちすくむ。 「ウゴ、じゃねぇ。いきなりナニしやがる」 「……血を頂こうかと」  男はちょっぴり(かじ)られた首をさすりながら、夢亞を細目で睨みつけた。 「血ぃ? なんだお前、血吸いの魔性か。変わってんな」 「ええまあ……。わたくしの一族は元々ルーマニアが本拠地ですから、日本では珍しいやもしれません……」 「毛唐が日本で幅きかせてんじゃねぇ」 「ゴメンナサイです」  夢亞は両手でなんとか頭を持ち上げて真っ直ぐ固定したが、手を離すとまたコテンと頭が倒れてしまう。どうやら首の骨がポッキリ折れたようだ。 「あの……あなたも魔族ですの? わたくしこれでも握力400㎏くらいある怪力ちゃんですのよ。それをいとも容易く跳ね除けて」
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