20年後の予約

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20年後の予約

 エス氏は「アポ」という名のレストランに恋人と一緒に向かった。  この世でもっとも美味しい料理が食べられると噂になっている店だった。  完全予約制だが、電話での予約は一切受け付けないという、一風変わったポリシーを持つ店だった。直接店に行って予約を取らなければいけないのである。かなり面倒くさいシステムだったが、そのことが逆に店を有名にしていた。  狭い路地裏に店を構えているため、車でアクセスすることはできず、歩くしか方法はないことでも知られていた。 「住所からすると、あれがきっとそうだ」エス氏は裏路地にある目立たない店を指差した。 「流行ってるように見えないけど・・・・・・」恋人は少しだけ汗ばんだ額にハンカチを押し当てた。  窓から中を覗くと、客の平均年齢は高く、一番若くても40才くらいである。ほとんどが白髪頭でファッションはフォーマルだった。しかし噂とは違い、空席がチラホラあるのだった。 「予約無しでも食べられそうじゃない?」エス氏は嬉しそうに言った。 「今日は予約のために来たんでしょ? 全然お腹が空いていないし、この格好じゃ無理だよ。カジュアル過ぎる」恋人はムスッとしながら言った。
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