episode 2 西国へ

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この3週間で記録した今のサウス・ガーデンの情報は紙にして120枚にも及んだ、導かれたのはアレフ宰相の治める現実のここは諸刃の剣の様なもので錆びついた剣は二度と打ち直す事が出来ないと言う結論だった。 案の定、行商人がサウス・ガーデンを離れる日も何ら咎められる事も無く懐の甘さだけが際立ったもので、3人は意気揚々とサウス・ガーデンを後にしたが危惧されたのは孤児(みなしご)やら売春に手を染めるまだうら若き少女達の顔。 騎士団領に帰投する帰り道3人はそれぞれにどう報告するかと迷いながらの帰路だった。 ☆ ローズガーデン大広間。 レムは帰投した3人の報告を報告書を通して耳を傾けていた、凄惨な状況を語られる度時に涙を浮かべながらの事だったが、それでも毅然としたレムの態度には3人も痛く心を打たれた。 「富裕層に住まう住民も根底からアレフに忠誠を誓う…と言う訳ではない様です、彼らは身の安全をお金で買ったと言う事ですが、それも全ての富裕層が全部ではない様ですね」 「愚鈍な領主に忠誠心など民は抱きません…彼等の言う『お金で安全を買った…』と言うのは本当でしょう…本来ならその賄賂を下位の者に分け与えたい所でしょうが、恐らくアレフはそれを罪として扱い断罪する…そう言う構図が貧富の格差を広げている元凶でしょうね」 アレフの能力の低さが手に取る様にレムには解る、彼は商人気質ではないのは当然として、結局は民に理不尽な思いをさせ苦しめ、自分に対する反発心を無くそうとする子供の様なやり方しか出来ない事にレムはほとほと呆れてしまった。 蛙の子は蛙…イングリットの動向もさる事ながら、何れ彼が後を継いだとしてもやる事は父親と同じ子供じみた支配、民は更に疲弊する事は比を見るより明らか…レムは深い溜息を零すとナナキに聞く 「白狼騎士の現状はどう?」 「あれはもはや騎士とは縁遠い烏合です、きっとアレフは味方した彼等が裏切るとは微塵も思っていないでしょうね…」 「ふむ…何とも情けない、叔父様が我慢しきれなくなってサウス・ガーデンに兵を差し向けてもそれでは蜘蛛の子を散らす様に四散してしまいますね、6年前のあの時の様に…」 6年前も彼等は自らの力を過信して手痛い目に遭っていた、たかが山賊風情の強襲であれ程に士気が乱れる様はまさに今ナナキの話した様な内容に相似している。
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