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第2章 サイド
今日も急いで借りた本を読み終わり、放課後すぐに図書館へと向かった。
到着し、まっすぐカウンターへ行くといつものように樋野さんが座っている姿が見えた。
最初は若い印象を受け、二十代前半くらいだと思っていたけれど、実際は三十を超えているというから驚いた。
私の姿に気づくと小さく手を振ってきたが、さすがに目上の人に手を振るのは抵抗感があるため代わりに出来る限りの笑顔で返事をした。
「こんにちは、葉田さん。今回はどうだった。気に入ったかな?」
明るい笑顔をこちらに向けながら小声でそう言った。
館内はたいして人が入っていないけれど、一応こちらも小声で答える。
「はい、とっても気に入りました。主人公の成長していく過程だけでなく、脇役の登場人物たちの成長も見応えがありました。
やっぱり樋野さんの選ぶ本は間違いがありませんね」
「良かった、そこまで言ってくれると選んだ甲斐があるよ」
樋野さんは私が中学生であることを承知のため、比較的読みやすい作品や明るい読後感を得られる作品などを選んでくれている。
「もう次に読んでみたい作品とか、決まっているの?」
私は「はい」と言ってからカウンターの壁に貼ってある大きなポスターを指差した。
「この人の作品を読んでみたいんです」
樋野さんの斜め後ろに貼られたポスターは「今月のオススメ」という大きな見出しが書かれている。
今月はある一人の作家を取り上げていた。
樋野さんは私の指の方向で大体わかったようで、「そうだなぁ」と腕組みをしていた。
もうどの本を薦めるか考えているのだろう。
それから急に「うん」と言って返却コーナーの本へ手を伸ばし、掴んだ本を私に渡した。
「この作品がお薦めだよ」
樋野さんじゃなかったら、ただ単に動くのが面倒でこの本を選んだのかと疑ってしまっただろう。
渡された本の表紙には『色』の一文字だけ書かれていた。
「それとね」と言ってまた返却コーナーの本をガサゴソと漁ってからもう一冊を出して見せた。
表紙には『サイド』と書かれている。
「実はこの『色』って作品は作者がこの『サイド』っていう作品に強く影響を受けて書いたものなんだ。
だから、こっちの本も一緒に読むのをお薦めするよ」
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