第5章 確信

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第5章 確信

翌日、昨日のあの光景など無かったかのように、本たちはいつもの美しさを取り戻していた。 「こんにちは。昨日はどんな本を借りたの?」 樋野さんに会えなかった時は次の日にどんな本を借りたかを教えるのがいつの間にか決まり事のようになっていた。 でも今言いたいのはそんなことではない。 「……樋野さん、何かあったんですか? 」 樋野さんは少し驚いた風であり、けれど聞かれることをどこかわかっていた風でもあって、いつもの穏やかさを纏いながら話し始めた。 「明後日に地元に帰るんだ」 「あ、明後日……?」 「急だよね」と笑って言いながらも寂しさを完全には隠せていない様子であった。 「じゃあ、司書のお仕事は……」 「やめる。もともとそういう約束をしてたんだ、両親と。何歳までに戻るっていう。 就きたい職業にも就けたし、葉田さんみたいな読書好きな子とも出会えた。 だからもう思い残すことはないよ」 嘘を言っているようでもなかった。 司書として勤め上げた数年間の感慨深さに浸っている様子だったけれど、今は早く本題を言わなければいけない。 「昨日、本の配置がいつもと違っていました」 「あぁ……それは、本当にごめんね」 「いえ、……あの本の配置はわざとですよね? 」 樋野さんが笑ったまま一瞬固まった様子を見せたことで、この考えに確信を持てた。 樋野さんの発言を待たず、何の前置きも無しに、確かめたいことをつらつら述べることにした。
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