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第7章 感謝
言いたいことを全て言い終わると、樋野さんは安心したような、ほっとしたような表情をこちらに向けて言った。
「そうだよ。気づいてくれてよかった。
……でもね、最後のところはちょっと惜しいかな」
「へ?」と気の抜けた声が静かな空間に響いた。
「このありがとうはね、図書館へもそうだけど、葉田さんへのありがとうでもあるんだ」
予想外の答えに目を丸くしてしまった。
その顔が可笑しかったのか、ははっと笑い声を上げてから、優しく微笑んで言った。
「読書はずっと一人でしてきたんだ。
自分で本を選んで、一人で黙々と読んで、どんなに面白くても一人で消化して……。
それが読書の醍醐味だと思っていたし、それ以外はいらないと思ってた。
もちろん、仕事上色んな人に本を薦めることはあるけれど、葉田さんみたいに毎日来て、楽しそうに僕の話を聞いてくれる子は初めてだった。
どんなに仕事が大変で、嫌になっても、君が僕の薦めた本を読んで、嬉しそうに感想を言ってくれたから、また頑張ろうと思えたんだ。
……君のおかげで、誰かと読書を共有する素晴らしさを知ることができたんだ」
一呼吸置いてから、「ありがとう」と目一杯の笑顔で言われた。
私が見た中で一番眩しい笑顔。
目頭が熱いことに気づかないふりをして、なるべく普段通りに、きゅっと閉まりそうな喉を無理やり開けて言った。
「手紙、書いてもいいですか。
聞いて欲しいんです。
どんな本を読んだのか。
お薦めの本も、教えて欲しいんです」
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