花火の終わりに。

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電車はお祭りで少し浮ついた夜の街を走る。速度が増すにつれて気持ちはどんどん軽くなっていく。指先から粘度の高い感情が落ちていくようで、気分が良かった。 食べかけのりんご飴と、赤い金魚をぶら下げて、やさしい言葉の並ぶスマートフォンを握りしめて、ああ、これで満足だ、と思う。 永遠なんてくそくらえ。お祭りは一夜で終わる。りんご飴だって食べ切るか、腐るかしてしまってわたしの元からいなくなる。電車は必ず止まる。恋愛感情だって枯渇する。金魚もいつか死ぬ。わたしも死ぬ。感情ごと巻き込んで、死ぬ。 そんなもの。全てはそんなもの。 ただ、お祭りは楽しくて、りんご飴は甘くて、金魚はうつくしく、わたしは生きている。一過性の恋愛感情を宝物みたいにして抱きしめることも出来るだろう。 永遠なんてくそくらえ。わたしは恋を忘れて、今夜のお祭りをずっと覚えていよう。金魚、わたあめ、りんご飴、白い浴衣、下駄の音、やさしい言葉。ずっと覚えていよう。
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