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しかし私は『私』が両親と話すときに父をいちいち父だと認識しないように、男が誰だと考えてなどくれないのだから、やはり、私と男の正確な関係は分からないままだ
私は男に挨拶した
「おはよう」
「ああ、おはよう」
男は私が来たことを訝しんだ
「今日は早いな」
「腹が減ったから、早く目が覚めた」
私の言葉に納得したのだろう、男はコクリと頷いた
「なら、手伝え」
「なら代わりに夕飯を手伝え」
「……分かった」
男は渋々と答えた
私たちは互いに無言で外に出る準備を始めた、しかし気まずい空気ではなく、朝の冷たくも落ち着いた心地よい静けさの様に私は思えた、私は微笑んでもいたと思う
無論、男がどう思っているかは分からないし、後から思い返す『私』など尚更だ
私は部屋に戻り、わらじと竹槍を持って、また玄関へ向かった
この時私は気にも留めなかったが、『私』は玄関へと向かう途中目に映った湖に細長い影があったのをしっかりと憶えている、そんな気がする
玄関では男が重たい青色の和装をして、首には弓をかけて、左手に矢を二本持っていた
私はわらじを履いて、男と一緒に外へ出た
私は森に向かって重たい泥の上を歩いた、男はずんずん先に行っている、しかし私は慌てずにゆっくり歩いた
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