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『私』が思い返して見れば驚くことだが、玄関の戸を開けると目の前には先ほどガラスを通して見た湖が広がっていた、さらに言えば私の視界の左端には湖と森を貫くように黒っぽいコンクリートの道があった
白いガードレールはあるにはあったが軽く乗り越えられそうなものであるし、ところどころ人が通れそうな隙間もあった
私と男が何故道を使わなかったのか『私』には全く分からない
夢だからと言ってしまえばそれまでなのだが、この夢を自分で夢と言いながらも、私の日常のワンシーンであると思いたい『私』はそう考えたくなかった
ここから私は森に着くまで歩き続けた、この時私は特に何か考えているわけではなかった
一人で歩いている時、明確に何かを意識する時間もあるが逆に特に意識せずその場その場で、おや赤信号だ、などと思考することを思えば、この時の私の行動もまた特に不思議なことではないだろう
『私』が思い返してみて、湖には水が張っていて上手くすれば私の容姿を水鏡で確認できると思っていたが、水面に映るのは波に揺れる黒い私の輪郭だけだった、曇天で日の光が弱かったのが悔しい
私が森の手前に着くと男が待ってくれていた、男が私を待ってくれるのはいつもの事であるため、先ほどは特に不安は感じていなかった
森のすぐ左にはさっきのコンクリートの道が伸びていて、目の前には暗い森、私は男が矢を番えるのを眺めていた
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