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男は構えたまま微動だにせず森を見つめていた
ふと、森の中で何かが動いた気がした、男が矢を放つ、くぐもった悲鳴が聞こえた
悲鳴の主はこちらに向かって走ってきた、ただ私と男の存在に気づいたのだろうか、進路を変えてコンクリートの道の方へ出てしまった
「運が無いね」
「黙っとけ」
私は男を笑った、男は拗ねているようだった
悲鳴の主の方を見た、それは猪だった、背中に矢が刺さり、今にも死にそうに見えた
猪が遂に力尽きたと思うと、コンクリートに森の奥の方から黒い飛蝗が降ってきて、あっと言う間に猪は道に溶けていって、いつの間にか飛蝗も消えていた
ますます夢みたいなものだから『私』は夢だから、ではなく、私の住む場所だからと考えようと思う
そうすれば『私』は納得がいく、私はそもそも疑問になんて思っていない
男はもう一度矢を番えた、私は動かず男を見ていたけれど、ふと気づいて男を竹槍の石突きでつついてやった
「来たよ」
「そうか」
男は構えを解いて、それでもまだ森の方を見ていた
森がざわめく、頬を風がくすぐっては通り過ぎていく、また森の中で何かが動いていた、さっきよりも早い
私はわくわくしていた、男も同じだと思う
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