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「ただいま~」
帰宅した小学生の息子が防護服を脱ぎながら言った。
「おかえり」
息子の脱いだ防護服を片付けながら父親である私は答える。
こんなことで良いのだろうか。私の研究は今のままで進展しないんじゃないのか。
わからない。
21世紀頃から始まった『殺菌・消毒ブーム』、親が子供を心配しすぎるあまり、身の回りの細菌を過剰に取り除かれた子供たちは、免疫力を弱め、その子供が親になった時、次の世代には更なる『細菌からの保護』が為された。
世代を追うごとに過剰になっていくそれは人類の免疫力を退化させ、ついに人類は防護服無しでは屋外で活動することができなくなった。
建物は全て二重扉で、外側の扉から入ると、防護服への消毒が施されてやっと内側の扉が開く。
食べものは全て合成食品で、味つけは何とかなるが、食感に差異は無い。
私が子供の頃も免疫力が低いことに変わりなかったが、ここまで酷くはなかった。
私の研究は、人類に再び免疫力を取り戻すこと。
しかし、今のところ成果は見られない。
今や我々人類は、生態系の頂点に立ちながら、地球上のどの生物よりも弱い存在になってしまったのである。
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