大変な1日

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「ウ、ウワアァァ……」  僕の目の前には、おかしな声を発している人が立っていた。  声だけでなく、格好も変だ。肋骨が見えているような穴だらけの汚いシャツの上にボロボロのジャケットを着て、さらに血がべっとり付いたネクタイを締めている。  その服装だけでも滅茶苦茶だが、さらにとんでもないのは身体そのものである。あちこちに、様々な種類の傷痕があるのだ。手首の周辺には切り傷、胸の周りには刺し傷、足には銃弾によると思われる傷もあった。一人の人間を、どうやったらこれだけ傷つけられるのだろうか……と疑問を感じてしまう。  顔色もまた、異常に悪かった。頬はこけ、目も落ち窪み、肌は青白いを通り越して腐り始めているようにさえ見える。口元は裂け、傷口からは肉がはみ出ていた。  この人は恐らく、映画やドラマなどで観るゾンビという奴なのだろう。  しかし、僕はこのコンビニでバイトを始めて、もう三年である。バイトの中でも一番のベテランなのだ。しかも今、店にいるのは僕ひとりである。どんな者が相手だろうと、お客さまとして来た以上は店員としてベストの対応をしなくてはならないのだ。  たとえ、お客さまがゾンビだったとしても。 「いらっしゃいませ」  丁寧に頭を下げると、ゾンビ氏は何やら奇妙なゼスチャーを始める。諸事情により、言葉が出ないらしい。新米のバイトなら、訳が分からず右往左往してしまうだろう。  だが、僕はベテランである。その動きから、相手の言わんとしていることを察した。 「あのう、ひょっとして……トイレでしょうか?」  すると、ゾンビ氏はうんうんと頷く。僕は、にっこりと微笑んでみせた。 「トイレはあちらです。どうぞ、お使いください」
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