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ゾンビ氏が帰った後、僕は念のためトイレをチェックしてみた。何せ、相手はゾンビ氏なのである。ここでは言えないような、ものすごい置き土産をされているかもしれないのだ。
だが予想に反し、トイレは綺麗なままである。先ほど掃除をした時と、さして変わらない状態だ。
僕はホッとした。あのゾンビ氏は見た目はひどい。だが公共道徳というものを、ちゃんと心得ていたらしい……脳味噌は腐りかけているように見えたが、ちゃんと働いていたのだろうか。
安心した僕は、レジに戻ると同時にフライを揚げ始めた。今日は確実に、いつもとは客層が違うだろう。混乱が予想されるため、今のうちに出来ることをしておかなくては。
コンビニの店員にとって、もっとも大切な資質……それは、あらゆる事態に臨機応変に対応できることだろう。
その時、自動ドアが開く。現れたのは、またしても顔色の悪い人だ。ただし、今度は高級そうな服を着ている。白いワイシャツに黒いベスト、さらに黒いマントを羽織っている。背は高く、髪は黒い。まるで中世ヨーロッパの貴族のような雰囲気を醸し出している。
ただし、その口からは長い牙が二本伸びていた。
このお客さまは、もしや吸血鬼ドラキュラでは?
「いらっしゃいませ」
それでも、僕は丁寧に挨拶をした。店に入って来た以上、どんな怪物であろうとお客さまなのである。お客さまには、礼儀を持って迎えなくてはならないのだから。
ドラキュラ氏は、悠然とした態度で店内を歩いている。さすがは闇の貴族、と言おうか……その歩く姿は堂々としており、気品すら感じさせる。
そして僕は、いつ来られてもいいよう、レジのそばに立っている。そう、僕はベテランなのだ。相手が吸血鬼だろうが赤鬼だろうが、仕事はきちんとこなす。
もっとも、警戒心も忘れてはいない。あのドラキュラ氏が他のお客さまにとって迷惑な存在となるようなら、すぐさま対処しなくてはならないが。
しかし、そんな心配は無用であった。ドラキュラ氏はミネラルウォーターの入ったペットボトルを一本買うと、すぐに店を出ていってしまった。その背中に向かい、僕は丁寧に頭を下げる。
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