大変な1日

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「ありがとうございました」  吸血鬼はトマトジュースが好き、何故なら血液に似てるから……というのは、僕が幼い頃に観たアニメの設定だった気がする。しかし、今のドラキュラ氏は特にこだわりは無いらしい。ちなみに便宜上ドラキュラ氏と呼んだが、正確にはドラキュラは種族名ではなく個人名だったりする。たまに間違えている人がいるのだ。ここは大事な所である。  そういえば、吸血鬼には実はいろんな弱点がある。流れる水は渡れないとか、招かれていない家には入れない、鏡には映らない、などなど……こうしてみると、弱点の百貨店と言っても過言ではない。特に、招かれていない家に入れないのは致命的である。  もっとも、コンビニの場合は全ての人を招き入れている。というより、招き入れないと営業が成り立たない。だから、ドラキュラ氏も入りやすいのだろう。  まあ、そんなことはどうでもいい。お客さまがいない今がチャンスだ。僕は店内を回り、商品棚のチェック始めた。商品が切れているところは補充し、廃棄しなくてはならない商品が紛れていないかを見る。これは、とても大事な作業なのだ。 「おい、俺が何が欲しいか分かるか?」  いきなり声をかけてきた人がいた。スーツを着てネクタイを締めた小太りの男だ。見た感じは、普通のサラリーマンであるが……まだ夕方だというのに、酔っぱらっているのだろうか。 「いえ……申し訳ないですが、分かりません」  にこやかな表情で、僕は答える。すると、サラリーマンは僕を睨んだ。 「はあ!? そんなことで、よく店員が務まるな! 客が求めるものくらい、顔を見ただけで当てろ!」  言っていることが無茶苦茶だ。酒の匂いもする。足取りもおぼつかない。この人は、明らかに酔っ払っている。まだ夕方だというのに、何があったのだろうか……。  その理由は、すぐに判明した。 「この野郎、それでもプロの店員か! お前、うかうかしてると俺みたいにリストラされるぞ!」
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