大変な1日

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 なるほど、リストラに遭ったのか……などと呑気に構えている場合ではない。このサラリーマン改めリストラマン氏は、いきなり殴りかかって来そうな雰囲気である。リストラされた怒りが、全身に充満しているのだ……。  もっとも、当然ながら店内には防犯カメラが設置してある。殴られれば、傷害罪で訴えることも可能だ。  しかし、この状況では警察沙汰は避けたい。何せ、店には僕ひとりしかいないのだ。傷害事件ともなると、僕は事情聴取をする羽目になる。そうなった場合、店の機能はストップしてしまうのだ。  それは、あってはならないことである。 「お客さま、未熟者で申し訳ありません」  とりあえず、僕は謝ることにした。どうにか機嫌を直してもらわなくてはならない。そのため、僕は頭を下げた。  しかし、これは逆効果だった。リストラマンは、僕の襟首を掴んできたのだ。 「てめえ! 適当なこと言ってんじゃねえ! 謝れば何とかなると思ってんだろうが!」  喚きながら、リストラマンは僕に迫る。これは非常に困った。どうにかして、相手に暴力を振るわせずに収めなくてはならないのに……。  その時、誰かがリストラマンの肩をポンポンと叩いた。 「誰だよ! 文句あんのかゴラァ!」  憤怒の形相で振り向くリストラマン。完全に頭に血が昇っていた。  だが次の瞬間、その怒りがしぼんでいく……見ている僕にも、手に取るように分かった。  もっとも、それも当然だろう。リストラマンの目の前にいるのは、恐ろしく背が高く体格のいい男なのだ。しかも、顔には長いギザギザの傷痕が何本も付いている。おまけに、両耳のあたりには巨大なボルトが一本ずつ刺さっている。  これは……やっぱりアレだろう。フランケンシュタインの怪物だろうな。  だが、リストラマンは分かっていないらしかった。 「フ、フランケンシュタインだあ!」  恐怖のあまり顔を歪めながら、リストラマンは僕から手を離す。と同時に、一目散に逃げて行ったのだ。  まあ、リストラマンが逃げる気持ちは分からなくもない。体は大きいし顔も怖い。ツギハギだらけの顔、でかいボルトの刺さった首、見上げるような巨体……ビビって逃げ出すのも仕方ないだろう。
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