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しかし、リストラマンは根本的な勘違いをしている。今、僕の目の前にいるのはフランケンシュタインという名前ではない。フランケンシュタインとは、怪物を創造した博士の名前なのだ。世間では、勘違いしている人が少なくないのだが……。
ちなみに、フランケンシュタイン博士の創造した怪物には、実は名前がない。すなわち、名前のない怪物なのだ。創造主に名前すら付けてもらえなかった、哀れなる存在……そう、原作は涙なくしては、語れない物語なのである。
そんなことを考えていた僕だったが、怪物氏の言葉でようやく我に返った。
「あ、あのう……これ、お願いします」
そう言うと、怪物氏は焼き肉弁当とハンバーグ弁当さらに菓子パンが数個にお茶のペットボトルが入ったカゴを指し示す。
さすが、この巨体だけあって食べる量も凄い……などと感心している場合ではないのだ。僕は、重大なミスを犯していることに気づく。
お客さまを待たせてはいけないのだ。
「申し訳ありません。すぐに……」
そう言うと同時に、すぐさまレジの方に向かう。会計を済ませると、怪物氏は軽く会釈して出ていった。紳士である。
「ありがとうございました」
その大きな背中に、僕は頭を下げる。心の中とはいえ、怪物氏、などと勝手なアダ名を付けては失礼かもしれない。だが、今は便宜上そう呼ぶしかないのだ。
これまた多くの人々に誤解されているのだが、原作である『フランケンシュタイン』の怪物もまた知的なのだ。読むと分かるのだが、怪物は自身の出生について悩み考え「自分は何者なのか?」という疑問にぶち当たるのだ。
しかし怪物は、高い知性と人間性とを持っているにもかかわらず、その醜さゆえに他の人々から疎外されていき……いやいや、『フランケンシュタイン』を考察している場合ではない。今は仕事中なのだ。
僕は再び、商品棚のチェックをする。そう、今の店には僕しか居ないのだ。僕がやらねば、誰がやる?
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