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「あ、あのう……」
ためらいながらも、僕はお客さまに声をかける。こういうのは一番嫌なのだが、しかし言わなくてはならないこと。
何故なら、僕の目の前には……ホッケーマスクを被り、ボロボロの服を着た大男がいるのだ。先ほどの怪物氏ほどではないにしろ、肩幅が広くガッチリした体格である。服を脱いだら、プロレスラーのような体つきをしているのだろう。
これは間違いない……13日の金曜日になると暴れだす、厄介なあの人だ。クリスタルレイクにて殺人鬼となり、何人ものバカップルを殺した伝説のモンスター……って、そんなことはどうでもいい。
この格好で店に入られたら、とても困ってしまう。なぜなら店の規則として、フルフェイスのヘルメットを被ったお客さまの入店は禁止しているのだ。当然ながら、ホッケーマスクを被っての入店も禁止である。
店員として、ここは何とかしなくてはならない。
「申し訳ないのですが、その仮面を外していただけないでしょうか……でないと、入店をお断りさせていただきます」
僕の言葉に、殺人鬼氏は首を傾げる。僕はもう一度繰り返した。
「申し訳ないのですが、そのマスクを外していただけないでしょうか? 店の規定により、入店はご遠慮いただくことになっているんですよ……」
言いながら、僕は頭を下げた。すると、殺人鬼氏はうんうんと頷きマスクを外す。意外とイケメンなのに驚いたが、そんな表情を見せてはいけない。
殺人鬼氏は一通り店の中を見て回り、お菓子とジュースを買っていった。その背中に向かい、僕は丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございました」
ちなみに、あまり知られていない話だが、シリーズ化された例の映画の一作目には、彼は出ていなかったりする。トレードマークのホッケーマスクも、実は三作目からなのだ。二作目では、袋を被っていたのである。
さらに、五作目には彼は出ていなかったりする……って、そんなホラー映画のうんちくを語っている場合ではないのだ。さあ、仕事仕事。
「いやあ、すまなかったね。一人で大変だったろう」
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