第四話

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 まだ学生たちで込み合う前の食堂に入ってきたハルヒコは、直が待ち構えていたことに、少なからず驚いたようだった。  入り口近くのテーブルに陣取っていた直の向かいに座ると、「どうしたんですか?」と不思議そうに訊ねてくる。 「何と言うか……随分と、怖い顔をしていますけど」 「昨日、花木と一緒だったんだってな」  遠回しに話すのは苦手だ。単刀直入に切り出すと、ハルヒコは目をぱちくりとさせ、少しためらった後に「えぇ」と頷いた。 「あんたから声かけたらしいじゃねぇか。どういうつもりだよ」 「どういう……と言うと?」  首を傾げるハルヒコに、直は拳でテーブルを殴りつけ、「ふざけんなっ」と怒鳴った。 「俺に、さんざん花木と付き合うなだの何だのいっておいて、自分はいけしゃあしゃあとナンパかよ。結局、何なんだよあんたは。花木と付き合いたくて、俺を遠ざけようとしてただけなのかよ。くだらねぇこと言って、人を振り回しやがって」 「僕は、そんなこと」 「黙れよッ!」  思いの外、その怒鳴り声は食堂内に響いたが、そんなこと気にしてなどいられなかった。ハルヒコを睨みやると、眉をハの字にさせ、物言いたげに口許が小さく動いていた。 「黙れよ」  もう一度、今度は少し落とした声で直は呟いた。今何かを言われたら、本当に殴ってしまいそうだった。 「……あんたのせいで、全部めちゃくちゃだ」  少なくとも、ハルヒコが現れるまでは何事もなかったのだ。花木のことを意識し過ぎることも、花木と仲違いすることも、何もなかった。もしかしたらもっと、穏やかに関係を築けたのかもしれない。  だが、それももう終わりだ。
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