名脇役

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この家に来てから今日で三十五日目。以前は使用前に数回振られる程度だったが、最近は常に逆さまで過ごしている。残量が少なくなり、出が悪くなったからだ。ここの一家は皆、僕の事が好きらしく、使用頻度が思ったより多い。中でも一番僕を好んでくれているのが、先程の女性の娘であろう女の子だ。彼女は何かと僕の味を頼る。唐揚げや餃子やパンなどあらゆるものに僕を使い、頬張る度に「やっぱり何でも合う」と一言漏らし、パッチリした瞳がクシャッと細くなり、とても幸せそうな表情をする。僕のせいなのか、彼女は少しふくよかな体型をしている。カロリーが高いと高いと言われているのは自分でも理解している為、女子高校生である彼女の事が時折心配になる。けれども幸せそうな表情を見ると。ついもっと使って欲しいという欲望が表に出てしまう。 それから数分後、また扉が開いた。眠そうな表情で空間を覗き込む顔は、日々の疲れを纏っているように見える。眼鏡の位置を直し、短髪の白髪頭を直し掻きながら牛乳を取り出した。彼がこの家の大黒柱である。彼は毎朝牛乳に砂糖を入れ、電子レンジで加熱したものを飲む事が習慣となっている。そんな不健康そうな飲み物のおかげなのか、彼の腹は何かを身籠っているかのような大きさだ。 暗闇の中で朝食の時間を待っていると、機械音に紛れる階段を駆け下りる音に気が付いた。僕にはその音の主が直ぐに分かった。その足音はそのまま僕の近くまで来て止まった。「どうして起こしてくれなかったのよ」という不機嫌そうな声が聞こえると同時に扉が開いた。頬を膨らした娘が余所見をしながら僕を手に取り扉を閉めた。彼女は僕の位置を的確に把握しているようだった。     
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