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春陰
澄慧は叉手して僧堂を出ると、馬のいななきを聞いた――ような気がした。
(来たか・・・・)
「澄慧殿・・・・!」
回廊の向こう側から住持の隠侍(侍者)が早歩きでやってきた。静寂を旨とする寺では走ることはできぬゆえ、もつれるように歩いている。
「・・・・澄慧殿、老師が・・・・お呼びです。急ぎ、方丈へ。」
隠侍は息を切らして言った。その声の奥に、馬のいななきと共に甲冑のきしむ音がするのが、此度は確かに聞こえた。
「寺が兵に囲まれましたな・・・・。承知しました。」
澄慧は一礼し、隠侍の後に続いて方丈へ向かった。回廊を進んでいくと兵たちの気配は間違いなく感じるものの、寺に踏み込んでくる様子はない。しかし、澄慧の出方によっては手荒な手段に出ることもあろう。
――寺に戻ってまだ一年とせぬに、かようなことが起こるとは――
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