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方丈へ着くと、隠侍は入室の弾指をし、それに住持の許可の声がした。
澄慧が入室し、住持の対面で平伏し、直ると、四十代初めの住持は常よりも厳しい声を発した。
「佐山医王院のご家臣がそなたの身を格護するとて来ておられる。そなたはいかがしたいか?」
澄慧の、そして寺の大事を前に、住持は澄慧の意思を確認してきた。
「・・・・その手段はともかく、貴豪殿が医王院宗家の家督を継いだ以上、わたくしが逃げても詮無きこと。貴豪殿のご家臣と共に参ります。さすれば、この寺に危害を加えることはありますまい。」
澄慧は、己の命運は定まったと思った。兄・是周ではなく、分家の貴豪の配下が先に己の身柄を確保しに来たとなれば、己の肚も決まろうというもの。だが、住持は変わらず険しい表情をしている。
「この寺のために行くのか? それはならぬ。今ならまだ隙をついて逃げることもできよう。そなたはわたしの弟子だ。寺法を盾にそなたを守ることもできるのだ。」
住持は必死の面持ちで諭している。それがありがたくも申し訳なく澄慧は思った。
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