彼女

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 ぎょっとした斗貴央に気付いたのか、彼女は慌ててスカートの裾を押さえ、自ら携帯を拾い上げた。 「ごめん! 違っ、あのっ!!」  いや、違わないけど、最初から嫌らしい目線でそうするつもりだった訳じゃない。斗貴央は心の中で必死に言い訳、いや、弁解しようと焦るが、その隙も与えてくれぬまま、彼女は走ってトイレを出ていってしまった。  音を立てて勢いよく閉まったドアを見ながら斗貴央は失敗したと絶望した。  自分は絶対に痴漢だと思われた──。  落ち込む斗貴央の視界の隅に小さなクマのぬいぐるみが落ちているのに気付く。キーホルダーのようだ。 「さっきの子の……、落し物?」  すぐにトイレを飛び出し、店の中を見回した後、急いで外に出るが、もう彼女の姿はどこにもなかった。斗貴央は拾ったキーホルダーに視線を落としながら彼女の顔を思い出していた。  色白の肌を恥ずかしそうに赤く染めた、スレンダーでとても綺麗な子だった。 「──かわい、かった……」  綻んだ口元からは思わずそう声が出ていた。     
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