溺愛

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溺愛

「龍弥に会った?」  ベッドサイドに腰掛け、服を身につけていた紗葉良の長い睫毛がパチパチと瞬く。なぜか斗貴央は、どことなく気まずげに天井を仰ぎながら話していた。 「う……ん。なんか、あいつってさ……。思ってたより悪い奴じゃなかったの、かもなぁーって」 「えー? 斗貴央って良い人ぉ~」  膝をつきながらベッドを這い、少し意地悪な笑顔で紗葉良は斗貴央の顔を覗き込んだ。 「なんだよそれっ、違うし!」  子供を褒めるみたいに扱われ、斗貴央は着替え途中の紗葉良を勢いよく引き寄せ、照れを誤魔化すように目一杯抱きしめる。「うぐ」と紗葉良の喉から変な音が出たので慌てて少し力を緩めた。 「紗葉良」 「なーに?」 「どこにも、どこにも行くなよ」  それまで幸せそうに恋人の胸に頬を寄せ、うっとりと閉じていた瞼を一瞬にして見開き、紗葉良は声を無くした。 ──斗貴央はなんて辛い、切ない声を出すのだろう。  紗葉良は両腕を大きな肩に回して抱きしめ返し、癖の強い斗貴央の茶色い髪をゆっくり撫でた。 「どこに行けるの、ここ以外。これ以上幸せな場所なんて俺にはないよ?」     
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